昨日、漫画家の吾妻ひでおが10月13日に亡くなったというニュースが流れた。
享年69歳。
世間的には若い方だか「失踪日記」を読んだ者としては良くぞここまで、お疲れ様でしたと申し上げたい。
取り立ててファンではない。この方の本職はSF系のラブコメである。私、そもそもラブコメ自体苦手だ。なので「失踪日記」の作者として存じ上げている。
失踪日記は当時、定点チェックしていた竹熊健太郎のブログ内で絶賛されていた。
およそ15年前の記憶を元にどんな内容の本かを勧めることで故人を想いたい。
原稿を落としてそのままホームレスに。
漫画家は自分の作業キャパシティと営業が上手くリンクしない。基本仕事を請け過ぎる。
今でこそ、三田紀房とか東村アキコなど分業制を確立した漫画家が一般認知され、寧ろその仕事術をビジネス本として出版する時代だが、昔は手塚治虫のマンガのとおり、締切前に各社担当者が列をなしというのが漫画家の一般的なイメージだっし、多かれ少なかれそれが実態だったのだろう。
そして、フィジカルなコンディションは後回しにされやすい。必然、睡眠時間が削られるが長くは持たない。
「断るって事を知らんのかい!?」
(「知らん」は「しない」だったかもしれないが、)本人が自分で自分に突っ込んでいた。
そうして原稿を落とし(気持ち的に)家に帰れなくなりそのままホームレスになった。
ホームレスったてやる事変わんねえ
ホームレス→文字通り「家なし」なのだから、まず夜露を避けることが死活問題だ。当方ビルの管理会社だが年末年始を迎えるにあたり、共用部にホームレスが入り込まないように施錠パトロールをするのはかなりガチな仕事だ。
次に飯。ゴミ漁りに寛容な店を探す必要がある。ホームレスにゴミ漁りを許さない店は意地悪ではない、当たり前だ。寧ろゴミ漁りを許す方がいい方悪いがだらしない。
屋根と飯。それさえなんとかなれば後は膨大な量の時間つぶしだ。公共の図書館は有用だ。可能な限りそこで過ごす。シケモク集めて吸い、自販機の下の小銭を拾って集めてたまにお酒を買って楽しむ。
なんだ。なんか、普通の生活と変わらんぞ。
公園の水道が風呂がわりで、当たり前だが冬より夏の方が過ごしやすい。
そして、やっぱりオヤジ狩りに遭う。
ガキは集まると弱いものいじめするものなのだ。但し、大人も同じだ。
住み込みでガス管施工会社に勤め出す。
そして、どういうきっかけだったが詳細は覚えていないが、ホームレスからガス会社の配管工になるのだ。
確か、配管工と合わせて怪しげな副業(紹介ビジネスか紹介物販)をやっている卑しい人物からの紹介だった。
とはいえだ、その人からの紹介がなければその後、家にも帰れてないし、ホームレスまま野垂れ死していたかもしれないと思うと、ご縁やきっかけは何処から降ってくるか分からない。
そしてガス会社の社長は支度金5万円と住処と仕事を与えてくれる。
Uber eatsの最近のキャンペーンもそうだが人材確保の為に前金渡すのは末端仕事では当たり前なのだ。(ウチの業界ではテ●ケ⚫️さんが羽振り良い)
レイヤー(階層)は変われどやる事は変わらない。
で、図面の書き方や配管の施工方法の実地を学び、同僚と飲みに行き会話と酒を楽しみ、時たま怪しげな同僚に変なもんを売りつけられたりする。
昔とった杵柄で、親会社の社内報に漫画を投稿したりもする。
このまま配管工続けるのが一番幸せではなかろうか、正直読んでてそう思った。
リクルーティングからして半端もんのの寄せ集めだ。但し、サラリーマンもやってる事は変わらない。
そんな清く正しい労働生活も長くは続かず、使っていた自転車の防犯登録か盗難届だかで警察のお世話になった際、家族から提出されていた捜索願いと照合されめでたくお家に帰ることになる。
このオッサン、原稿落とした勢いでホームレスになるが、妻、子どもアリの家庭もちだ。
暫く家から会社に通うが、取るに足らない人間関係への気遣いから退職する。
「そんな事で?」ということで社員がふらっと辞めるのだから社長は大変なんだろうけど、それが日常茶飯事なんだろうと思う。
アル中に対しての家族の対応は「相手にしない」が正解。
更にこのオッさん。ホームレスを卒業した後、「大五郎のワンパックを飲んだら手の震えが止まる」程のアル中になる。
幻覚も見るようになり奥さんに内容報告するが、奥さん、全く相手にせず引き続き夕飯の支度を進める。
そして何かの拍子でケガをして帰宅した際(もしかしたらオヤジ狩りにあったのはここだったかもしれない)、息子に羽交い締めにされアル中治療の病院送りとなる。
アル中は立派な病気なので、家族が出来る事はほぼ無い。必要なのは適切な専門治療である。
要所要所で出てくる家族の対応が100満点なのだよ
もしもある日突然、親父が死期を悟ったネコの如く突然居なくなったり、妖怪の様にみりん舐めたりしだした時、宅の家族は何ができるか。
居なくなったら警察に捜索願いを出し、様子がおかしいなら医者に任せる。
これしかできない。
できる事は行政・専門家に頼る事だ。
尚、自分に危害を加えるようになったら逃げ出すか切り離すしかない。それも行政は支援してくれる。
そこには至らなかったのでとても偉いと思う。
ご冥福をお祈り致します。
漫画の後半は、病院内の愉快な患者さんの話や実際役立つアル中基礎知識である。
アル中は出戻りが多いらしい。この方がで戻ってしまったのかどうかは追っていない。本当に「失踪日記」しか読んでいないのだ。
但し、15年前に読んで今でも思い出せるくらい強烈なインプレッションだった。
もし、ちょっと興味を持って頂けたら是非とも読んで欲しい。
何事も根を詰めやすい方、現状に歯を喰いしばって耐えている方、どうかこの本を読んで欲しい。
逃げ出してもなんとかなるし、逃げた先の基本的な日常は多分変わらない。
そしてご本人様、ご家族に恵まれて何よりです。
ご冥福をお祈り致します。
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